甲状腺がんの他地域との比較診断はすべきでない |
がんの過剰診断はずいぶんと昔から問題になっており、放っておいても害をなさない腫瘍までがんと診断され、そのため無用な治療を受け、不安や苦痛を受けるばかりか、人によってはその後の障害に悩まされることにもなる。
過去には韓国で超音波検査が実施された結果、甲状腺がんと診断される人が20年間で15倍に激増した。その間、甲状腺がんで死亡した人はほとんど横這いだったため、これは典型的な過剰診断の例とされる。
甲状腺がんは進行が遅く、治癒率も高いがんだ。よってがんが存在しても大半の人はそれと知らずに寿命を迎えてしまう。
さてこの件に関して、韓国の事例を持ち出すのは適当であるが、「福島の被曝量では甲状腺がんは起きないはずだ」というのは反論として相応しくない。なぜなら被曝によるがん細胞の発達はまだ正確にわかっているわけではないからだ。
過剰診断はチェルノブイリでも起きているようで、国連科学委員会によると、ロシア、ベラルーシ、ウクライナでは20年間に18歳以下に7,103人の甲状腺がんが発見されたが、死亡例はわずか15人である。致命率は0.2%に過ぎない。もし福島の甲状腺がんが被曝由来で危険ながんだとしたら、はるかに大規模な原発事故だったチェルノブイリでも見られなかった奇妙な現象となる。
これを確かめるためには他の地域との比較をすればいいのだが、国立がん研究センターの津金昌一郎氏は「過剰診断を招き、無用の不安をもたらすだけだ」とこれには反対の立場である(なお津金氏は福島の甲状腺がんの一部は被曝による可能性を否定していない)。
私も原発事故と関係ない地域に出向いてまで、子供の甲状腺がんの検査はすべきではないと考える。これを行えば韓国のように甲状腺がんの過剰診断による激増は避けられないからだ。
そして人はがんと診断されたら心穏やかではいられない。過剰診断の可能性を知らされたとしても「自分は違うかも知れない」と考えるであろうことは容易に想像がつく。自分の身体の中にがん細胞が存在していると知って放置できる豪胆な人は少数であろう。
そして治療を受け、甲状腺の摘出などということになれば生涯にわたってホルモン剤を服用しなければならない。子供の頃からこうした境遇におくことは残酷である。
福島ですべきことは個別の事例ごとに被曝量をできるだけ正確に把握することであるが、これを過剰診断かどうかを判別するために、関係ない地域(例えば九州)などで集団検診を行うなどということは、子供をいたずらに不安にするだけなのですべきではないと考える。
科学的な正確さを知りたいのはやまやまだが、そのためのデメリットとしては大きすぎるからだ。