根拠薄弱な理論で危機を煽るのは有害である |
主にデマを流したのはヘイトスピーチの連中と重なる。「中国人や韓国人が犯罪のし放題」などという、ネトウヨの無責任で犯罪的なデマから出たものである。
ところがいわゆる「庶民派」の中にも、このデマをつまみ食いして持論の補強にしようとした者もいるのだ。たとえば澁谷知美氏などがそうである。
澁谷氏は「性犯罪は起きている。だが増加と言える根拠はない」という至極当然の見解を、
『被災地での性被害をないことにしてしまいたい、被害者の口を封じたいという思いは、「発生はデマ」という主張も、声高に叫ばれる「増加はデマ」という主張も共有する心性』
として全面否定する。「発生していない」は間違いなのは証明されているが、「増加している」は証明されていない。よってこれらふたつの意見を同一のレベルで語ることは不可能なのに、澁谷氏は強引に同一レベルに持ち込もうとする。そして「避難所などでは性犯罪の被害に遭っても表沙汰にしにくい」などと、持論を膨張させて「性犯罪の増加は事実」という方向に誘導したがっているのだ。
だが考えてもみよう。避難所で「声をあげにくい」と同じくらいかそれ以上に、「人の目があるので犯罪はしにくい」という傾向も当然考えられるはずだ。つまり誘発>抑制である根拠はどこにもないのだ。
原発事故や飛行機事故などと違い、犯罪行為の仮定に基づく予防原則は危険である。なぜなら非常な人権の侵害を伴う恐れが大きいからだ。よって悪意があるかないかの違いはともかく、結果として澁谷氏の主張はネトウヨのヘイトスピーチと同じ結果を招く恐れがあるのだ。
似たようなことが最近起きている。それは人権NGOヒューマンライツ・ナウが「日本ではAVへの出演などを強要される事例が続出している」と発表したが、当のAV女優らから「報告は誇張がある」と反論を受けた。これがAV製作会社からの反論なら眉に唾をつけて見なくてはならないが、被害者とされるAV女優からの反論はヒューマンライツ・ナウの発表に誇張があることを裏付けるものではないか?
ヒューマンライツ・ナウの活動はAVや性風俗産業を壊滅させるべき搾取産業と決めつけているかのようだが、こんな対応こそAV女優の「自己決定権」を否定し、職業差別の助長に繋がるようにしか思えない。
どんな業界にもブラックは存在する。そしてごく少数例を持ち出しては「性搾取の増加を否定するのは、性搾取そのものを否定するもの」という、ぶっ飛んだ理論に直結するので注意が必要だ。
特に左派は女性側に感情移入しやすいので、この罠にはまってしまわないようにするべきである。事実誤認や誇張による人権被害の強調は、「人権派」を「人権屋」と揶揄する反人権勢力につけ入れられる隙を生む。