ニッポンの害人(11)―鈴木亘 |
日本の社会保障が決定的に遅れているとは言わないが、充実していない分野もある。それをまったく認めようとしないのが鈴木亘である。
新自由主義の提唱者ともいえるミルトン・フリードマンは政府による市民への過剰な介入を排除せよとの主張はしてきたが、既得権バッシングなどはしていない。ところがこの理論が日本に来ると、途端にルサンチマンなどに昇華されてしまう面がある。
鈴木亘は保育所職員の給与が高すぎるのが保育所不足の原因と例によって労働者叩きを始める。鈴木は一部で流された「保育士報酬は年800万」という極論的な報道に飛びついたのだ。
以前、「いや保育士も介護士も報酬は低いと思うぞ」で述べたように、この高額報酬は保育士一般の待遇を代表していない。中には待遇の良い保育士もいるだろうが、それを一般化させ、持論に都合よく利用しようとするのは卑劣なやり方だ。
鈴木の攻撃は、貧弱な保育行政にではなく、ひたすら労働者叩きへと転化する。
「保育士の労働組合が既得権を守るために保育所の新設を妨害している」などは粗悪な陰謀論のたぐいだし、「認可の基準が厳しすぎて保育所が増えない」などは、ただの旧型ネオリベ的規制緩和論の域すら出ていない。
鈴木は週刊文春の中で、「保育所は補助金漬け」とバッシングを繰り返しているが、要は人件費を抑えれば安く上がるという、最も安直で、それこそバカにも言える方法しか示していないのである。
鈴木の醜悪な主張は他にも数多い。
ひとつを取り上げると高額療養費制度がある。これは医療費が高額になると、個人負担が大きくなりすぎるために、その分は支払いを肩代わりしましょうという制度だ。そこで鈴木はこれを高齢者による「パケットし放題の医療」と表現している。
だがこんなに悪意に満ちた暴言はない。鈴木が高額療養費制度の姿を知らないはずはない。明らかにこの人物は知っていて、悪意を持ってこの制度を攻撃しているのだ。
高額療養費制度を適用されるのは月額医療費自己負担(保険料込みではない)、無収入なら35,400円、収入26万円以下の低額収入なら57,600円にもなる。平均的な収入がある人ならなんと80,100円だ。医療費控除が適用されるのが年額100,000円だから、だいたい月額8,500円。その4~10倍もの医療費を負担していないと適用されない制度なのだ。どこが「パケットし放題の医療」などというレベルだ?
こんな金額は、できれば医療負担を避けたいと思わせるほどのものだ。「使い放題だから」と、月に4万も10万も好きこのんで医療費を払う人間がいるはずもない。こんな初歩的なデタラメを平気で吐くのが鈴木という人間なのである。
鈴木の主張は福祉を削減しろ、人件費を削れ、既得権(と呼んでいるだけの保護制度)を潰せ、と叫ぶだけの中身のない主張である。そんな「節約」でことがすむなら誰でもできる。いい加減に経済紙など、鈴木を起用するのはやめたらどうか? どうせ中身カラッポの既得権論しか唱えることのできない人間なのだから。