弱者を装うことが有利に運ぶケース |
だが別の意味で、日本人は「弱者の立場」に乗ることもありうることを示したい。
先の都知事選では小池百合子が大勝した。自民党からの支持ももらえず、かつて都知事になった女性がないという逆風の中での勝利、と多くの人は思っている。
だがこれは間違いだ。小池は逆風どころかこれらの条件が強力な追い風となって当選したのだ。
まず自民党からの支持を取り付けられなかったことであるが、これが有権者には「大政党から優遇されている支持者への反発」という形で小池への票となった。つまり小池は自民党から干されたからこそ、有権者による同情票を集めたのである。
もし小池が本当に無所属で出馬するというなら、自民党を離党すべきである。
同じように女性ということはこの選挙ではなんらマイナスに働いていない。それどころか連日ワイドショーは小池のファッションやら化粧のノリやら、どうでもいいことを報道し続け、小池の勝利を後押しした。
つまり小池にとって政党の支持を得られず、女性であることはマイナスどころかプラスに働いたのである。本人もそれを売り物にしたし、周囲のマスコミもそれを取り上げることで結果的に小池の応援となったのだ。
似たタイプの選挙をしたのが小泉信一郎、橋下徹、河村たかしである。
彼らの選挙スタイルは敵を作ることであった。小泉政権までは郵政勢力は自民党の大票田であった。そこを敵に回し、強大な組織に果敢に立ち向かう弱者を演じることでB層の票をかっさらったのである。橋下については大阪の職員労組、河村については市議会を敵に回すことで、それぞれ巨大な組織の既得権と戦う弱者を演じてB層の票を獲得したのだ。
長老政治家や高級官僚、議員にいじめられる自分をアピールすることによって、B層を味方につけることを計算しているわけだ。
バンドワゴン効果が出るのはこのあとである。流れが決したあとに勝ち馬に乗るのである。よって「弱者の政治利用」とバンドワゴン効果は両立する。
先に紹介した拙リンク先「日本ではバンドワゴン効果しか起きない」では1980年の第36回衆院選挙で自民党が劣勢を跳ね返して大勝した。これには大平首相の急死というアンダードッグ効果があると述べたが、実は自民党はこの選挙を「大平首相の弔い合戦」と宣伝を打つことで同情票を大量に集めたのである。
乙武氏は障害者ゆえに不倫騒動を起こしてもマスコミに叩かれることは少なかった。他の芸能人の不倫とは違い、乙武氏は何人もの女性と不倫しているのにだ。また神戸少年殺害事件の被害者は、出版の自由を、自らの被害を強調して妨害している。
これらはいずれも弱者の立場を利用しているのである。自らを弱者と位置づけ、相手をより強大に見せることにより、人は弱者と強者の立場を知らぬうちに入れ替えてしまうのだ。しかも往々にして、こうした行為を行う自称弱者は、本人が「実は支持を受けるだろう」ことを想定しているのが罪深い。