水族館の捕獲イルカ問題で間違えてはいけないこと |
世界動物園水族館協会(WAZA)の4月の通達を巡って、国内世論は大きく割れた。
「追い込み漁は残酷。もうこれをやめるべき時に来ている」
「なぜイルカだけが問題にされるのだ。牛も豚も動物ではないか」
ここではなるべく感情論を避け、個々の問題を論理的に分けて考えてみたい。
まず、WAZAが主張するのは「追い込み漁の禁止」ではない。「捕獲したイルカを水族館に展示すること」への反対なのである。世界の趨勢はイルカは自前で繁殖させたものを展示するとなっている。残念ながら水族館大国でありながら、その整備について日本は非常に遅れており、譲渡に頼るしかないのが現状である。よって海外からの譲渡が停止されれば日本の水族館(動物園含む)は非常な痛手を蒙る。日本の水族館・動物園がWAZAの主張を受け入れた背景にはこれがある。
日本では水族館は人気のある施設のため、たいした繁殖設備も持たずにお手軽に経営をしている面があるのも事実だ。自前繁殖が世界の主流であることは分かりきっているのだから、こうした警告なり勧告なりが来る前に施設を充実させておくべきだった。
WAZAの組織が追い込み漁をどう思っているのかはこの際関係ない。心の底では「残酷だ」と思っているかも知れないが、それを前面に押し出しているわけではない。
ところがWAZAは魚類に関しては追い込み漁であろうと、底引き網であろうと、捕獲した魚の展示を禁じていないのだ。なぜイルカだけダメなのだ?という感想を述べるのなら、まずここから突っ込むべきだろう。
さらに日本人からすれば納得いかない面として、追い込み漁で捕獲したイルカは展示物として世界中に輸出されていることだ。もし「自前で繁殖するのが当然」と主張するのなら、捕獲したイルカの展示物としての輸出入を禁止すべきである。そして日本の捕獲イルカを展示している海外の水族館にも警告を送るべきであろう。
そして私が最も疑問に思うことがある。
それは「軍用イルカ」の存在である。アメリカやロシアなどはかねてからイルカの軍事利用を進めてきた。嵐で逃げ出した米軍の軍用イルカのニュースを聞いたことのある人もいるだろう。欧米の動物愛護団体はなぜかこの軍用イルカについては妙に物分かりがいいのだ。
人間の都合で、しかも破壊競争でもある戦争にイルカを駆り出すことには非常に寛大なのはなぜだろう?
こうしてみると、水族館の施設問題をクリアして、自分の身体をきれいにしたのち、日本からも「イルカの軍事的利用など野蛮な行為ではないか?」と主張するようになれればいいと思っている。