2015年 08月 03日
悪い現実から目を背けても事態は好転しない |
「限界集落」という言葉がある。大野晃(あきら)氏が20年ほど前に提唱した表現だ。高齢化が進み、集落としての機能をやがて維持できなくなる恐れのある集落を言う。概ね65歳以上の高齢者が半数を超えた地域を指すようだ。
この言葉はいかにも衰退に向かっているようで響きが悪いと、2008年に東国原・当時宮崎県知事が「いきいき集落」と呼ぶことを提案した。私はこれに非常な違和感を持った。大野氏は問題の深刻さを知ってもらうために、限界集落という強い表現を使ったからだ。
呼び方をソフトにして、いかにもバラ色の未来があるように見せても問題は何ひとつ解決してはいかない。
最近、介護職が重労働の割に賃金が低いという表現が教科書に載るということで抗議があった。
たとえばここのブログがそうである。記事は7月14日だ。
「介護労働が低賃金」という教科書の問題点(lessorの日記)
http://d.hatena.ne.jp/lessor/20150714
福祉現場に働くブログ主のlessor氏は教科書にまでネガティブな表現を用いるのはやめるべきだという。自己紹介によると「零細NPO法人の理事長・事務局長・ヘルパー」だそうだ。どうやら自分の職場にマイナスのイメージが着く記事はお気に召さないらしい。
だが介護現場が重労働の割に低賃金なのは厳然とした事実なのである。
lessor氏は同規模の事業所や女性の賃金と比較して「さほど低くない」と言っているが、低賃金は企業規模にも影響している問題だというのは労働問題を扱っている人ならみんな知っている。「小規模事業所だから低賃金になるのは当然」かのような発言は、lessor氏が低賃金の問題を根底から理解していないと言うことだ。介護を担当しているのが小さな事業所に偏り、しかも労働力の安い女性ばかりに負担がのしかかるという構造自体が問題なのだ。そこから目を背けてどうするのだ? 事実をありのまま伝えての教科書であるべきだ。
そしてちょっとうがった見方をすれば、lessor氏は「理事長・事務局長」という幹部側の人物である。幹部側の人間であれば、自分の事業所の労働環境が悪いことを指摘されるのは抵抗があるようにも思える。
またSYNODOSには5月19日に次のような記事が載った。
なぜ若者は遣い潰されるのか――日本のアニメはブラック業界(くみかおる)
http://synodos.jp/society/14091
日本のアニメ業界の劣悪な待遇について述べたものだが、これもまた当のアニメ業界から反発や苦情が寄せられた。ケチを付けてきたのは例によってアニメ製作に関わる「監督」など幹部側の人間である。
アニメ情報は無数に流れるが、労働者からの声はまず表に届かない。届くのは一定の地位にいる製作者側の声ばかりだ。幹部側の人間は末端の労働者の、苦悶の声をシャットアウトしてしまう。だから寄稿者のくみ氏はこの反応に対しても毅然と反論している。
これらの問題に共通することは、表面だけ小綺麗に見せても、内部が腐っていればそれは何の意味も持たないということである。
自分の属する業界が「ブラック企業」のように扱われたら、そこで成功している人間が反発するのは当然想像できる。だが実態を見つめない限り、その綺麗に彩られた表面とは別に、内部に巨大な爆弾を抱えたままであることを認識すべきだろう。
この言葉はいかにも衰退に向かっているようで響きが悪いと、2008年に東国原・当時宮崎県知事が「いきいき集落」と呼ぶことを提案した。私はこれに非常な違和感を持った。大野氏は問題の深刻さを知ってもらうために、限界集落という強い表現を使ったからだ。
呼び方をソフトにして、いかにもバラ色の未来があるように見せても問題は何ひとつ解決してはいかない。
最近、介護職が重労働の割に賃金が低いという表現が教科書に載るということで抗議があった。
たとえばここのブログがそうである。記事は7月14日だ。
「介護労働が低賃金」という教科書の問題点(lessorの日記)
http://d.hatena.ne.jp/lessor/20150714
福祉現場に働くブログ主のlessor氏は教科書にまでネガティブな表現を用いるのはやめるべきだという。自己紹介によると「零細NPO法人の理事長・事務局長・ヘルパー」だそうだ。どうやら自分の職場にマイナスのイメージが着く記事はお気に召さないらしい。
だが介護現場が重労働の割に低賃金なのは厳然とした事実なのである。
lessor氏は同規模の事業所や女性の賃金と比較して「さほど低くない」と言っているが、低賃金は企業規模にも影響している問題だというのは労働問題を扱っている人ならみんな知っている。「小規模事業所だから低賃金になるのは当然」かのような発言は、lessor氏が低賃金の問題を根底から理解していないと言うことだ。介護を担当しているのが小さな事業所に偏り、しかも労働力の安い女性ばかりに負担がのしかかるという構造自体が問題なのだ。そこから目を背けてどうするのだ? 事実をありのまま伝えての教科書であるべきだ。
そしてちょっとうがった見方をすれば、lessor氏は「理事長・事務局長」という幹部側の人物である。幹部側の人間であれば、自分の事業所の労働環境が悪いことを指摘されるのは抵抗があるようにも思える。
またSYNODOSには5月19日に次のような記事が載った。
なぜ若者は遣い潰されるのか――日本のアニメはブラック業界(くみかおる)
http://synodos.jp/society/14091
日本のアニメ業界の劣悪な待遇について述べたものだが、これもまた当のアニメ業界から反発や苦情が寄せられた。ケチを付けてきたのは例によってアニメ製作に関わる「監督」など幹部側の人間である。
アニメ情報は無数に流れるが、労働者からの声はまず表に届かない。届くのは一定の地位にいる製作者側の声ばかりだ。幹部側の人間は末端の労働者の、苦悶の声をシャットアウトしてしまう。だから寄稿者のくみ氏はこの反応に対しても毅然と反論している。
これらの問題に共通することは、表面だけ小綺麗に見せても、内部が腐っていればそれは何の意味も持たないということである。
自分の属する業界が「ブラック企業」のように扱われたら、そこで成功している人間が反発するのは当然想像できる。だが実態を見つめない限り、その綺麗に彩られた表面とは別に、内部に巨大な爆弾を抱えたままであることを認識すべきだろう。
by leftwing63
| 2015-08-03 00:37
| 社会(労働・福祉)