TPPは自国利益誘導に満ちた歪んだ国家間交渉 |
TPPは太平洋を取り巻く各国による事実上の自由貿易協定の設定が主な目的であり、貿易上のルールを包括することを目的としている。
自由貿易が強調されるので、日本では農業への影響ばかりが扱われるきらいがあるが、影響は多岐に及ぶ。農業とは逆に、国内よりも海外を主力市場としている企業には追い風となる事項も増えるだろう。
「科学を食い物にするTPP著作権交渉
多角交渉・秘密交渉で犠牲になるのは非営利分野だ(山内正敏)」
http://webronza.asahi.com/science/articles/2015072700009.html
これはWEBRONZAに寄稿されたものである。
「米国の主張する保護期間の延長と非親告罪化によって、研究成果の論文検索が難しくなり、科学者の活動を制限する」
という問題を提起している。
アメリカは科学論文を「売っている」。アメリカの雑誌に掲載された科学論文は、それが50年前の論文であっても購読料としてPDF1本あたり約5,000円の対価を要求しているというのだ。
山内氏は将来的な論文の可視化を保障するために著作権転移に同意したのだが、アメリカはそれを逆手にとって、著述者であっても自分の論文をダウンロードできない状況下に置いてしまった。まさに科学の商業的独占である。
私も科学というものは人類の共有財産であり、論文そのものは盗用は反則としても、引用などは自由である、ましてやその閲覧など言うまでもないとばかり考えていたが、政治のフィルターを通すとそういうものではなくなるらしい。
そしてアメリカは自国に有利な状況をさらに著作権の保護期間を延ばすことでさらに進めようとTPP交渉では目論んでいるのである。
科学論文と著作権の関係は難しい。論文はそれ自体が営利目的ではなく、こうした研究成果が後に利用されて利益を生むものと解釈されるからだ。だから論文を商品化したものに「特許」がある。
TPP問題では甘利財政再生相が「某国が過大な要求をして…」と述べた。この某国とはニュージーランドを指すことをニュースは伝えているが、ニュージーランドは農業国であり、特に乳製品の生産は大きい。
そこでニュージーランドの要求を呑んでも、日本がニュージーランドから得られるものは少ない。これでは大産業を持つ国の一方的な商売の場に国際社会がなってしまいかねない。先のアメリカの「論文」と同じく。
こうした自国エゴの主張ばかりが声高に叫ばれるとその先に何が待っているのか?
極端な場合、一国占有という状態になることが考えられる。自由貿易の名の下に大産出国の輸出が他国の経済を仕切ってしまい、その国の該当産業は壊滅などという事態も考えられる。
他にも新薬と後発薬品の問題も知的財産権と絡んで揉めそうな情勢だ。日本のように公的医療保険が充実した国では混合診療の問題も出てくるだろう。
ただ言えることは、TPPが自国エゴを剥き出しにする場なら、そんな場を設定したことに疑義が呈されることもあり得るということだ。
なお混合診療の問題は別の機会に語ってみたい。