英国で緊縮財政政策が不評という当然の話 |
EUは財政が苦しくなった国には例外なく緊縮財政を要求している。借金が大きくなれば生活レベルを落とすのが当然という自称エコノミストどもの発言だ。ここで考えて欲しいのは家計と国家財政は違うという点である。
家計は財力以上の効果をもたらすことはないが、経済が活性化すれば財政は好転する。以前アイスランドの例を挙げたように、積極財政による経済の復活で財政の好転を招くケースはいくつも知られている。
逆に緊縮財政で経済が好転した例を自称エコノミストどもは挙げられたためしがない。それはそうだ、私が知っている限りでもそんな例はないからである。
英国の緊縮派といえばマーガレット・サッチャーが真っ先に思い浮かぶ人も多いだろう。サッチャリズムは英国を復活させたというがそれは本当だろうか?
まずサッチャーが新自由主義政策に傾倒していた(ハイエクの影響を受けたと言われる)80年代には主要国営産業を次々民営化した。しかし寄ってきたのは外資系ハゲタカ企業であった。ここでまずサッチャーの誤算がある。
そして金利の引き上げを行い、インフレを抑止しようとした。ところがこれも輸出産業の衰退という形で失敗することになる。こうして賃金が抑制され、格差は拡大した。ここまでのサッチャーはとても評価できる代物ではないのだ。
サッチャーはその後、インフレターゲットを推進する。これにより雇用や賃金が多少なりとも好転した。だがこれは明らかにサッチャーならではの政策ではない。
なぜ「ゆりかごから墓場まで」の福祉政策の英国でサッチャー政権が長く続いたのか?
ひとつには社会保障に対する偏見が増して、貧困を自己責任とする風潮が高まったこと。日本が「自己責任論」に傾倒したのは2000年代のことだが、英国はそれを20年早く経験してきたのだ。
それと二大政党制による小選挙区制という要素も大きい。
結果としてサッチャーが残したものは、公的機関の民営化による公務員の数の上だけの削減でしかない。
英国民は格差拡大についても、富める者が財を成せば、それは貧困層にも波及するという「トリクルダウン仮説」に基づいて期待していたものだ。これはサッチャー自身も認めている。だがトリクルダウンが実際に確認された例はない。緊縮財政は、財布の紐を固めれば財政が復活するだろうという短絡的過ぎる夢物語でしかなかったのである。
近年の日本はサッチャー時代の英国の轍を踏もうとしている。それは長期的に経済を疲弊させ、格差を拡大した過去の事例をまったく省みていないことでもある。