労働分配率の推移、そして政府の姿勢 |
労働分配率は生産規模の大きな企業ほど小さくなる傾向があり、逆に中小企業ほど大きい。中小企業では人件費が経営を圧迫しているという傾向はここから表される。
また逆に言えば大企業の労働分配率が小さいのはある程度やむを得ないことで、共産党などが「大企業はもっと給与として還元しろ」といっても無理な面がある。
さてその労働分配率であるが、これから好景気に向かう、つまりは上がり基調の時には下がる傾向がある。逆に成長が上げ止まり、停滞もしくは退潮傾向の時には上がる傾向がある。
なぜかというと、景気が良くてもいつまでも好景気が続くわけではないので、企業は青天井で給料を上げることはできない。一方、不況に向かう時はどうか? 景気が悪くなったからといって簡単に従業員をクビにしたり給料を下げたりもできない。
これは人件費の硬直性であり、このために景気が上昇傾向の時は労働分配率は下がり、下降傾向の時は上がるのである。
また好景気も長く続けば、企業は人件費を出す体力がつくので、労働分配率は上がる傾向にある。要は景気の急上昇時は一時的に労働分配率が下がるのは自然な現象なのである。
日本では20世紀の間はこの傾向がはっきりと現れていた。高度成長期には労働分配率は下がり、安定成長になってからは上がった。またバブル期にも労働分配率は下がり、バブルが崩壊し始めた頃から上がり始めたのだ。
ところが21世紀に入るとこの傾向がはっきり見えなくなる。特に2002年以降にその特徴が現われ、長期の安定成長にあったにも関わらず労働分配率は下がり続けた。おかしな話で、企業は体力がついているはずなのに、労働者に還元しなかったのだ。
そしてリーマンショックでの業績急降下時には一時的に労働分配率は上がったが、その後は下がり続けている。
アベノミクスで内容はどうあれ、形だけは成長しているのだから、前述の理論からすれば労働分配率が下がるのは当然だという意見がある。だが労働分配率の低下はアベノミクスの前から始まっているのだ。その賃金だが、今も思うように上がってはくれていないようだ。7月期の賃金上昇率は前年を下回った。
このままではまずい、と安倍政権は考えているのだろう。企業に「賃上げしてくれ!」と懇願しているのは、労働分配率が上がらなければ労働者が好景気を実感できず、その結果支持率にも悪影響を及ぼすと考えているからだろう。
だがそれにより、安倍政権の支持率が下がるとは私には思えない。新安保で下落した支持率はわずか2ヶ月ですっかり元に戻った。日本国民の健忘症ぶりにも呆れるが、新安保廃止支持はフジテレビ調査で66%、NHK世論調査でも景気は回復していると考えている人はわずか13%で、回復していないの48%を大きく下回った。手法的にも思想的にも不満だらけ、にもかかわらず安倍政権の支持率はそれなりに高いのである。
競争相手のない安倍政権が賃金アップという難題を放り出しても支持率は下がらない、そう気づけば安倍政権は賃上げ要求など撤回することは容易に想像できるのだ。