「疑似科学批判者」の見当違いな批判 |
鼻血は被曝影響だったのか――原発事故のデマや誤解を考える菊池誠×小峰公子
http://synodos.jp/science/16028
放射線の影響で鼻血を出したという話を「デマ」と切り捨てる形での対談となっている。私はこれを読んで、
「だから菊池誠はダメなのだ」
との考えをあらためて持った。
まず最初に述べておくと、私は放射線と鼻血の関連性については懐疑的な立場である。つまり最終的には菊池氏と同じ結論に行き着く可能性が高いと思っている。それなのになぜ菊池誠氏を「ダメ科学者」と呼ぶか?
それは菊池氏があさっての方向を向いて批判を行っているからである。
まず被曝の影響というのは未知の部分が大きい。これをまったく無視している。すでにわかっていることが最終的な結論だと思い込んでいる。菊池氏の批判に「この程度の被曝で鼻血なんか出るわけがない」というのは単なる過去の「菊池側の」知見でしかなく、相手の論点とズレている。また鼻血も放射線障害も確率の問題だということを無視している。つまり数十万人のうち数百人程度の鼻血の増加なら、それはマスクされて表に出ないということだ。
ホットパーティクル仮説というものがある。簡単に言えば放射能を帯びた粒子が呼吸によって体内に入ることで起きる内部被爆被害である。これも「ホットパーティクルは肺に沈着するのになぜ鼻血だけ症状で出るのか?」と言って論破した気になっている人がいる。鼻の粘膜は非常に弱い。鼻血が最も出やすい症状と考えることはできるだろう。
だいたい健康な人が驚くほどの出血を起こすのは鼻血くらいしかない。それほど弱い鼻孔中のキーゼルバッハ部位であれば真っ先に症状が現れると思うのは自然な発想である。要するに主張しているメカニズムが違うのだ。放射線技師や宇宙飛行士の被曝量が大きいといっても、それは内部被曝ではない。放射能を含んだ灰を吸い込んだわけではないので比較の対象になるはずがない。
わかってもらえるだろうか? 菊池氏は相手が主張していることとまったく違うことを語って論破した気になっているのだ。そして菊池氏は持論に都合の良いことを言ってくれる学者の主張ばかりを根拠としている。
「メルトダウンは起きていない」「政府の発表は飛躍的に正確になった」と今から見れば見当違いのことを平然と述べていて、その後の発言だけは正確だとどうして言えるのか?
とは言っても、福島の被曝量は広島やチェルノブイリよりは桁違いに小さいことは確かだ。だから私も鼻血は放射線が原因である公算はきわめて低いと見る。
私が菊池氏を批判する理由は次のことによる。
「現時点での科学ですべてが説明できると思い込んでいる」「メカニズムが違うことまで同一の理論で説明しようとする」「自分に都合の良いデータしか持ち出さない」「過去の大きなミステークに知らぬ顔を決め込む」
彼が嫌っているのは非科学ではなく過剰表現である。菊池氏は心配する人すべてを「サヨク」とバカにしたような表現で罵倒する。非科学を批判するのではなく、心配する人間をバカにして一人悦に入っているのだ。こういう人間は科学者としてというより、人間としての態度が間違っているのである。
一方、安斎育郎氏も疑似科学批判の先鋒であるが、自らの知識の限界を知っている。頭ごなしに相手をバカにして見下すような行為をしない。彼も原発と鼻血の因果関係には否定的であるが、科学を真摯に見つめるという点では菊池氏より数段上である。