生前退位に反対多数だったのはなぜ? |
そもそも現在の天皇制にはかなりの無理がある。というのは前世代の天皇が死ぬまで皇太子は天皇になれない。現在ではほとんどの人が長寿である。天皇家も例外ではなく、天皇が代替わりする頃には、皇太子は相当な年齢になっているのだ。
当然、天皇として活動できる期間は短くなる。そして高齢になってからの活動ばかりになってしまうのだ。
そんな状況を知っているから世論は天皇の生前退位に賛同するのだ。
ところが政府の「有識者」による「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」では生前退位に反対する意見が相次いだ。最終的には憲法学者などの意見が反映され、生前退位に賛成が上回ったが、その比率は世論とはほど遠い。
なぜこうなるのか?
それは政府が選んだ「有識者」とやらが「右翼」に偏っていたからだ。
そのメンバーを見るとめまいを覚える。百地章、櫻井よしこ、八木秀次、渡部昇一など実に香ばしい面々である。
つまり安倍政権は天皇の生前退位を認めたくないのだ。そのため「有識者」と銘打って非常に偏った人選をして、最初から「生前退位の否定」に傾かせるための工作をしているのである。
天皇発言ではその公務の苛烈さばかりが語られるが、もうひとつ「殯(もがり)」という制度があげられている。このことを正確に伝えたメディアは私の知るところではひとつもない。
殯とは古代に行われていた葬送前儀式である。これは天皇の死を認めることを先送りし、復活を願うというものだった。やがて遺体は朽ち果てていく。腐敗しミイラ化し、最後には白骨化するまでそのまま放置されるのだ。
そこまできてやっと「天皇はもう蘇らない」と判断する。そこで初めて埋葬される。その朽ち果てていく姿をさらされ続けるのだ。信じられないことだがこんな残酷なことがずっと行われてきたのだ。
なるほど、死ぬ前に生前退位したいと思うのも理解できるところである。
そもそも終身天皇制など明治以降に生まれたものである。日本の伝統でもなんでもない。江戸時代以前には生前退位は普通に行われていたことなのになぜこの「有識者」は生前退位にそれほどまでに反対するのか?
それは天皇の威光を背景にして、自分たちの思想を押し付けたいためである。そのためには天皇の意向など聞いてはならないのだ。
こうした右翼論陣を見ていると、本当にこの連中は天皇を尊敬しているのかまったく疑問に思う。